ゲーム制作の失敗談②-1,「センス」に逃げるな!

TCG

男性向けスマホゲームの開発!自社コンテンツの活用を目指す?

前回の記事から続くゲーム制作の失敗談シリーズ。今回は男性向けスマートフォンゲームに携わったときの話をします。
前回の記事に登場したAさんのトンチンカンに振り回されていたのと並行して、あるプロジェクトが私たちの部署に降ってきました。それは、自社で販売しているトレーディングカードゲームのキャラクターを生かした、スマートフォンゲームを作ろうというものでした。
おそらく発案者は常務取締役で、他社のゲーム(多分「プリンセスコネクト!Re:Dive」)を見て閃いたのだと思います。かなり饒舌にプリコネの解説をしてたので。
プロジェクトの話が降りてきた段階で、下のような内容が概ね決まっていました。
・自社トレーディングカードゲームのキャラクターと、カードのイラストを流用する
・ゲーム内容はカードゲームではない(プリコネのようなバトルシステム)
・リリースと同時期にテレビアニメを放送する(アニメの放送時期に合わせて、ゲームリリースの締め切りが決まる形です)
以上のオーダーを受けて開発の始まった新作ゲーム。開発会社も取締役が見つけてきた会社に決まり、制作が進んでいきます。

まず最初に行ったのは、基礎資料づくりです。トレーディングカードゲームのキャラクターを流用するということでしたが、総キャラクター数はかなりの数です。まずは登場させるキャラクターと、そのキャラクターのどのカードに描かれているイラストを使うかを決めることになりました。この作業はマネージャーたちが行い、登場キャラクター(約100体)と使用するイラストが決まります。
このキャラクター選定が終わった頃、開発会社よりバトルシステムの草案が出てきます。参考にするタイトルがプリコネだったので、基本は同じような作りになりました。自動でキャラクターが戦い、必殺技の使用のみプレイヤーが指示するというものです。

続いて行ったのは、シナリオ作りとBGMの制作です。
まずはシナリオについてです。これは取締役のオーダーを元にベースの世界設定を社内で形にします。そしてそれを元に外部のシナリオライターへ発注して、社内で監修します。ここで後々困ることになるのが、取締役のオーダーです。このゲームではシナリオに登場したキャラクターが敵として登場するため、取締役が「このキャラクターをここで登場させる!」と言い出すと、ゲームの進行状況にそぐわない強敵戦が発生してしまうのです。なのでリリース間際に、登場する敵を弱くする作業に苦労しました。
BGMについては、キャラクターソング制作などで付き合いのある作曲家に依頼しました。どんなシーンで使用するBGMでこんなイメージや気持ちを想起させるもの、参考BGMはこれ、といった注文をします。

以上のように、開発会社がゲームを動かす部分を作り、私たちがゲームの見た目部分を作っていきました。

問題山積み!開発会社との意思疎通ができない!

それぞれの会社が役割を果たしながらゲームが作られていくわけですが、決して順風満帆とはいきません。特に認識の不一致を擦り合わせないまま進めてしまうことが多く、後になって問題が発覚することが頻繁にありました。ただしどちらかが一方的に悪いということではなく、お互いに言葉が足りなかったためです。
例えば、デザインに関する意識の違いです。元々カードゲーム用に描かれたイラストなので、複雑な構図で描かれているキャラクターが多数います。それを流用してストーリー中に表示させると、キャラクターによって目線の高さや顔の大きさがまちまちになります。開発会社がそこへの配慮がないことに、マネージャーは腹を立てます。しかし開発会社の立場からすれば、指示されたわけではありません。渡されたイラスト画像を同じ位置で切り取り、表示させているのに過ぎないのですから。
他には、ゲームに登場する敵の強さやキャラクター育成の難易度についてです。これらはレベルデザインと呼ばれ、どのようにユーザーがゲームを進めるかのテンポや行動サイクルに関わる重要な要素です。開発会社はゲームとしてのやりごたえを高くするために、厳しい難易度を設定します。しかし私たちは難易度が高いとユーザーが離脱してしまうと考え、簡単にしようとします。ここの意識のすり合わせが非常に難しく、運用の段階になっても擦り合わせきれないままになってしまいました。後日また別の記事でお話ししますが、この擦り合わせができていないことで運用の際に問題が多発しました。

皆さんが今後ゲームを作ることがあれば、以上のような問題が少しでも減るように努めることをお勧めします。
具体的にどうすればよいかというと、
・議事録は必ず会議後に確認し、話したときのニュアンスと異なる記録のされ方をしていれば、訂正して再度全員に確認させる。
・やってほしいこと、やって欲しくないこと、自分たちが気にしているポイントは細かく伝える
・相手に指示を出すときは、指示する意図を明確に伝える(なぜ必要か、目的は何か、この作業によってどうしたいか)
当たり前に見えるかもしれませんが、割とみんなできません。言われていないことはできないし、話し手の意図を察することもできないのは普通のことです。それなのに察してもらうことが前提で、自分の期待する成果を相手にのみ要求するのは思考放棄とさえ思います。
こう考える理由は、ゲーム制作の仕事を行っていた頃によく耳にした、ある言葉があるからです。それは「センス」です。開発会社の作る成果物に対して「センスがない、センスがない」とマネージャーたちはよくぼやいていました。しかし私からすれば、相手に伝える力がなく察してほしいだけの人が使う、甘えた言葉でしかありません。
そういった状態で制作を進めていたため、リリースされたこのゲームの状態は酷いものでした。スマートフォンゲームにつきものである「運用」のフェイズで、この意思疎通の課題が一層あらわになります。詳しい話は、また後日別の記事でお伝えいたします。

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